夜勤の巡視で、患者さんの様子がいつもと違う気がする。
でも、何がおかしいのか、うまく言葉にできない。
新人のころは、誰もがこの「なんかおかしい」に戸惑います。
先輩や医師に報告したいのに、
「どこがどう悪いの?」と聞かれると答えられず、
結局様子を見てしまう。
臨床30年以上の経験から言えるのは、
その違和感はとても大切なサインだということです。
この記事では、違和感を「数字」に置きかえて伝えるための、
急変の前ぶれサインの見方を整理します。
急変は、突然ではないことが多い
病棟での心停止や急な悪化は、
まったく前ぶれなく起きるように見えることがあります。
けれど実際には、その数時間前から、
呼吸数や意識、血圧などに
小さな変化が出ていることが多いと言われています。
早期警告スコアや、院内の急変対応チーム(RRS)の仕組みは、
こうした変化を早めにとらえるために作られたものです。
大切なのは、「急変してから動く」のではなく、
「急変しそうなサインで動く」という考え方です。
なかでも見落としやすいのが呼吸数
血圧やSpO₂はモニターで自動的に測れますが、
呼吸数は自分で数えないと分かりません。
忙しい夜勤ほど後回しになりがちですが、
呼吸数は全身の状態の悪化を早く映すと言われる項目です。
30秒でもよいので、
胸の動きを見て数える習慣をつけておくと安心です。
夜勤の前に確認したい6つの「赤信号」
英国の王立内科医協会がまとめた早期警告スコア「NEWS2」では、
次のどれか1つでも当てはまると、
3点(赤信号)とされます。
- 呼吸数:8回以下、または25回以上(1分間)
- SpO₂:91%以下(慢性の高二酸化炭素血症がある人は別の基準)
- 収縮期血圧:90以下、または220以上
- 脈拍:40以下、または131以上(1分間)
- 意識:新たな混乱がある、声にだけ反応する、痛みにだけ反応する、反応がない
- 体温:35.0℃以下
また、酸素を投与している場合は、それだけで2点が加わります。
1項目でも3点に当てはまれば、
合計点が低くても、すぐに医師へ報告する目安になります。

体温は「低いほう」にも注意
発熱には気づきやすい一方で、
体温が下がっていることは見落とされがちです。
高齢の方や重い感染症では、
熱が出ずに体温が下がることもあります。
35℃台の前半が続くときは、
ほかの項目もあわせて確認しましょう。
合計点でも判断する
NEWS2では、6つの項目と酸素投与の点数を足した合計点でも、
対応の目安を決めています。
- 0〜4点:リスクは低い。看護師が評価し、観察の回数を判断する
- 5〜6点:リスクは中くらい。すぐに医師へ報告し、1時間ごとに観察する
- 7点以上:リスクが高い。緊急の対応が必要で、モニターで続けて観察する
NEWS2は英国の指標なので、
日本の施設では、それぞれのRRSの起動基準や
院内の手順を優先してください。
それでも、「どの数字が危ないのか」を頭に入れておくと、
夜勤中の判断が格段にしやすくなります。
医師への報告は「型」で伝える
赤信号に気づいても、報告がうまく伝わらなければ、
対応は遅れてしまいます。
そこで役に立つのが、SBARという報告の型です。
- S(状況):「○号室の○○さん、呼吸数が28回に上がっています」
- B(背景):「肺炎で入院3日目、夕方は呼吸数20回でした」
- A(評価):「呼吸状態が悪くなっていると思います」
- R(提案・依頼):「診察をお願いできますか」
ポイントは、「いつから」「前回値はいくつか」を添えることです。
電話をかける前に、カルテ、
最新のバイタルサイン、指示簿、
アレルギーを手元にそろえておくと、
慌てずに話せます。
受けた指示は復唱し、そのあと記録に残します。
報告のあとも、観察を続ける
報告して指示を受けたら、それで終わりではありません。
指示どおりに対応したあと、
もう一度バイタルサインを測り、変化を確かめます。
よくならない、さらに悪くなっているときは、
ためらわずに再び報告してください。
夜勤のはじめに、5分でできる準備
急変に早く気づけるかどうかは、
夜勤が始まる前の準備で大きく変わります。
申し送りのあと、最初の巡視の前に、
次の5つを確かめておくと安心です。
- 担当患者さんの「ふだんの値」:呼吸数、SpO₂、血圧、脈拍、意識の様子を、メモに書いておく
- 急変時の方針:心肺蘇生をどこまで行うかなど、医師と家族で話し合われた方針がカルテにあるか
- 当直医とリーダーへの連絡方法:PHSの番号や、院内の急変コールの番号
- 救急カートと除細動器の場所:点検が済んでいるか、すぐに持ち出せるか
- 酸素と吸引の準備:気になる患者さんのベッドのそばで、すぐ使える状態か
特に、急変時の方針は、
夜中にいざとなってから探すと時間がかかります。
分からないときは、日勤のうちにリーダーへ確認しておきましょう。
夜勤の巡視で見ておきたいこと
赤信号の数字を覚えたら、次は「いつ、どう見るか」です。
夜勤の巡視は、眠っている患者さんを起こさないよう、
短い時間で回ることが多いと思います。
それでも、次の3つは毎回、意識して見ておくと安心です。
- 呼吸:胸やおなかの動き、呼吸の速さ、苦しそうな表情や肩で息をしていないか
- 顔色と皮膚:顔色の悪さ、冷や汗、手足の冷たさ
- 反応:声をかけたときの返事、目の開き方、いつもと違う言動
眠っているように見えても、
呼びかけへの反応が鈍いときは、意識の変化を疑います。
前回値と比べる
数字は、1回だけ見ても判断しにくいものです。
同じ脈拍100回でも、
ふだん70回の人と、ふだん95回の人では意味が違います。
申し送りのときに、
その人のふだんの値を確認しておくと、
夜中の小さな変化に気づきやすくなります。
記録は「事実」と「時刻」を残す
気になる変化に気づいたら、時刻と数字、
見たままの様子を記録に残します。
「22時 呼吸数24回、肩で息をしている。
本人は大丈夫と話す」のように、
事実を書いておくと、
あとから経過をたどりやすくなります。
報告した相手と時刻、受けた指示も、
あわせて書いておきましょう。
ケースで考える:夜中に呼吸数が増えてきたとき
ここでは、架空の例で、
NEWS2の点数のつけ方と報告の流れを見てみます。
肺炎で入院3日目の80代の方。
22時の巡視で、なんとなく息が速いように見えました。
測ってみると、次のような値でした(酸素は投与していない)。
- 呼吸数 22回:21〜24回なので 2点
- SpO₂ 95%:94〜95%なので 1点
- 収縮期血圧 108:101〜110なので 1点
- 脈拍 104回:91〜110回なので 1点
- 意識 清明:0点
- 体温 38.4℃:38.1〜39.0℃なので 1点
合計は6点で、
「すぐに医師へ報告する」目安の5〜6点に当てはまります。
1つ1つの数字は「少し高い」程度でも、
合わせて見ると、悪化のサインがそろっていることが分かります。
この場合の報告の例
「○号室の○○さんです。
22時の値で、呼吸数22回、SpO₂ 95%、脈拍104回、
体温38.4℃で、NEWS2は6点です。
夕方は呼吸数18回、SpO₂ 97%でした。
肺炎で入院3日目です。
呼吸状態が悪くなってきていると思います。
診察をお願いできますか。」
今の値・前回の値・点数・自分の評価・お願いしたいことが、
短い報告の中に入っています。
報告のあとは、指示に沿って対応し、
30分〜1時間後にもう一度測って、変化を確かめます。
数字に出ない違和感も、報告してよい
ここまで数字の話をしてきましたが、
一番伝えたいのは、
数字が軽くても
違和感があれば報告してよいということです。
「いつもより口数が少ない」「顔色が悪い」
「なんとなく落ち着かない」といった変化は、
数字より先に出ることがあります。
報告するときは、「数字はまだ大きく崩れていませんが、
いつもと様子が違うので気になっています」と、
そのまま伝えてかまいません。
経験のある看護師ほど、この一言を大切にしています。
新人看護師によくある迷い
夜中に医師へ連絡するのが申し訳ない
当直の医師を夜中に起こすのは、気が引けるものです。
けれど、報告は患者さんを守るためのもので、
遠慮して朝まで待った結果、
対応が遅れることのほうが心配です。
迷ったら、まずリーダーに相談し、
一緒に報告するかどうかを判断してもらいましょう。
SpO₂は保たれているのに、呼吸数が多い
SpO₂が正常だと、つい安心してしまいがちです。
しかし、呼吸を速くすることで、
SpO₂をなんとか保っている状態のこともあります。
酸素を投与していると、
SpO₂の数字だけでは悪化に気づきにくくなります。
SpO₂だけでなく、
呼吸数と呼吸の様子を必ず一緒に見ることが大切です。
もともと会話がかみ合わない患者さん
認知症などで、ふだんから会話がかみ合いにくい方もいます。
その場合は、意識の評価が難しくなりますが、
大切なのは「ふだんと比べてどうか」です。
日中の申し送りや家族の話から、
ふだんの様子を知っておくと、
夜間の変化に気づきやすくなります。
一人で抱えないために
夜勤は人が少なく、
判断を一人でしなければならない場面が多くなります。
迷ったときは、まずリーダーや先輩に
「見てもらえますか」と声をかけてください。
報告して何もなければ、それはそれでよい結果です。
先輩に相談するときも、
「○号室の○○さん、呼吸数が少し増えていて、
いつもより反応がゆっくりなので、見てもらえますか」と、
気づいたことをそのまま伝えれば大丈夫です。
一緒に見てもらうことで、
判断の根拠を学ぶ機会にもなります。
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まとめ
急変は突然ではなく、
その前に小さなサインが出ていることが多いものです。
呼吸数・SpO₂・血圧・脈拍・意識・体温の赤信号を頭に入れ、
1つでも当てはまれば報告する。
報告はSBARの型で、「いつから」「前回値」を添えて伝える。
そして、数字に出ない違和感も、遠慮せずに伝えてください。
施設によって手順が異なる部分もありますので、
ご自身の病棟のルールとあわせて取り入れていただければ幸いです。

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